まず「農業法人」とは、農業を営む法人(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、農事組合法人)のことをいいます。
農業法人の設立には、個人経営の農家による場合と、農業に参入する一般企業による場合がありますが、それぞれ次のようなメリットがあります。

【農家の方が農業法人を設立する場合】

◎家計と農業経営を区分しなければならないため、経営管理能力の向上につながる
個人経営の農家の場合、白色申告で納品書や請求書を保存すればさまざまな記載を省略できますが、法人の場合は複式簿記での記帳が義務となります。手間が増えることはデメリットとも思われますが、家計と農業経営が分離され、お金の流れが明確になるため、経営管理能力が向上します。

◎個人資産と農業経営資産を区分しなければならないため、経営承継が円滑化できる
農業経営の承継は、個人経営の農家の場合は自身の子どもや娘婿等が相続したり、第三者に売却したりすることになりますが、法人の場合は構成員や従業員に経営を承継することができます。
そのため、意欲ある有能な後継者の方を親族以外からも確保できます。

◎人材の確保と育成がしやすくなる
法人は社会保険への加入が義務づけられ、保険料の事業主負担が発生しますが、従業員にとっては安心して働ける環境になります。
そのため、新規採用等による人材確保や、長期雇用によって知識や技術を伝え育成することがしやすくなります。

◎対外信用力が向上する
法人の場合は貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)等の財務諸表の作成が必須になりますが、財産管理面が明確になりますので、金融機関や取引先等に対する信用力を高めることができます。

◎制度上のメリットを受けることができる
個人経営の場合は所得税、法人の場合は法人税がかかりますが、所得税と法人税では適用される税率や条件が異なるため、法人のほうが税制面でメリットがある場合があります。
また、法人の場合は、欠損金の繰越控除が9年間まで(個人経営の場合は3年間まで)、日本政策金融公庫の制度融資や農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の貸付限度額が10億円まで(個人の場合は3億円まで)になるメリット等もあります。

 

【一般企業が別で農業法人を設立する場合】

◎一般企業に比べ、農地所有のための要件を満たしやすい
法人が農地を所有して農業を行う場合、農地法の要件を満たす必要があります。
この要件とは「農業又は農業関連事業の売上高合計が、全体の半分以上を占めること」や「株式の譲渡制限があること」ですが、農業法人を別で設立したほうが要件を満たしやすいといえます。

◎他社と共同で農業に参入できる
別法人として農業法人を立ち上げる場合、地域の複数企業で共同出資し、合弁企業とすることもできます。
合弁企業の立ち上げにより、耕作放棄地の増加や農業者の高齢化(地域農業の担い手の減少)といった地域の問題に、地域で連携して取り組むことができます。